夢を見た。
不思議で、だけどすごく懐かしい夢。
『夢の後の約束』 Toshiro ver
俺には最近、不思議に思う事があった。
ここ最近、がよく柑橘系を好んで食べている事。
「っかしーよな……」
「何がですかィ?」
隣にいた総悟の声ではっと我に返る。
「……いや、何でもねーよ」
平然を装ってそう答える。
仕事中に女の事考えてた、なんて言えねーからな……
「やだなァ土方さん、独り言なんて年寄りの仲間入りですぜ」
「お前、喧嘩売ってんのか……?」
「いーえ、とんでもねェや」
言いたい事だけ言って逃げた総悟の背中を見つめながら、
俺は懐から煙草を取り出して、火を付けた。
縁側に腰掛けて煙を吐き出しながら、
俺は無意識の内で再びあいつの事を考えていた。
どうも最近の様子がおかしい。
甘党のあいつが、柑橘系を好んで摂るんだぜ?
それから少し辛そうでもある。
だけどそれ以外は特に変わっちゃいねェ。
何なんだ?一体。
……明日はオフだし、様子見に行くか。
「おい、」
「ん?」
縁側でのんびり茶をすする彼女に、俺は寝そべった姿勢で尋ねた。
「お前、最近変じゃねぇか?」
「へっ?!」
驚いたのか何なのか、
取り敢えず動揺して湯飲みをひっくり返しそうになった彼女を見つめる。
そして続けた。
「何か俺に隠してねぇ?」
すると、見やった先の彼女の頬はだんだん赤く染まり、
「別に隠してた訳じゃないんだけど……」と呟いた。
何だ?
顔なんか赤らめて……
あ、やべ。
何か…………眠てぇ。
意識、飛びそ………
しばらくの沈黙の後に、彼女はそっと呟いた。
「あのねトシ……って、寝てるよこの人」
寝るの早いな〜!
そう呟きながら微笑みを浮かべて、彼女は彼の髪を撫でた。
「お疲れ様、トシ。起きたら話すからね……」
「ねぇねぇ」
「ん……?」
誰かが俺を呼ぶ声で目を覚ました。
最初はかと思ったが、目を開いてからそれは100%違う事が解った。
俺の前に広がるのは、何だか取り敢えず白い空間。
誰も、何も見当たらない。
って事は夢か……。
「夢でも意識ってあるんだな」
そんな事を呟くと、後ろの裾をつんつんと引っ張られた。
不思議に思って振り返ると、そこには小さな子供が1で人ポツンと立っていた。
真っ黒な髪の毛の、にっこりと微笑んだ少年が。
「チビ、お前どーしてここにいるんだ?」
そう尋ねると、ちっこいのは「うわー」と小さく感嘆の声を漏らして呟いた。
「若いなァ……」
「はぁ?」
「あ、いや、何でもないよ!」
眉を寄せる俺に、チビ助は慌てて誤魔化そうとする。
そんなチビ助を見下ろす。
若い?お前の方が十分若ぇだろーが。
それにしても、この顔どっかで……
そんな事を思っていた俺に、えーと、と小さく呟いた後チビが尋ねた。
「えと、アンタが土方?」
にっこり微笑んで尋ねるチビ助に、
俺もそっと微笑んで、ぷにぷにした頬を軽くつねってやった。
「アイタタ、何すんだよォ」
びよーんと軽く斜め上方向に引っ張ってやる。
痛そうに顔を歪めるチビ助に俺は言った。
「てめー、年上にんな口の利き方していーと思ってんのか?」
「ご、ごめんなひゃいごめんなひゃい!」
手を離してやると、瞬間にチビ助は小さい手で赤くなった頬を覆って、
アイターと呟きながら撫で始めた。
「ちぇ、コレはこの時からもう既に健在なのかァ」
「あ?何か言ったか?」
「んーん」
首を横に振るチビ助に、ポンと軽く頭を叩いて俺は尋ねた。
「お前、ここに何しに来てんだ?」
こんな真っ白な空間で。
何の為にここに来たのだろうか。
それよりも、どーして俺の夢の筈なのにこんなチビがいるんだ。
不思議に思う俺の問いに、少しの間の後チビ助は答えた。
「え……とね、会いに来たの」
「……誰に」
そう呟いた時、俺の掌の下にいるチビ助と視線がぶつかった。
何だか、ものすごく見つめられているのだが。
……これはもしかして。
「……俺、か?」
そう尋ねると、チビ助はコクンと首を縦に振った。
こんなチビ助、親戚にいたか?
屯所で預かる迷子達の中でも見た事はねぇし。
「チビ、お前」
「あ!」
お前は誰だ。
そう聞こうとした瞬間、チビ助と声が重なった。
「何だ?」
「それ」
ん?とチビ助の向ける視線の方を向くと、腰にぶら下がる剣が目に入った。
どうやらコレを指しているらしい。
「これがどーした」
「その剣、大事なんだよね?」
「……あぁ、そーだけど」
そっと柄に手を掛けた。
掌にはその硬さが伝わってくる。
……そう、コイツは誇りだ。
俺の、生きる総て。
視線を腰に落としたままでいると、再びチビ助が言った。
「母上が言ってた。剣を握る人は、何かを護る為に剣を抜くんだって。
……護る物があるんだよね?」
「……まァな」
あるさ、護りたいものなんて山程。
ちっぽけなプライドも武士道も、色々と。
一応大人だから体裁も気にはなる。
だけど1番に護りたいものは……。
仲間と、剣と、……。
俺の両手いっぱいにいるコイツらを護る為。
だから俺は剣を抜く。
「僕も、誰かを護る為に剣を持ちたい。……父上のように」
剣から視線を戻すと、真剣な目つきで立つチビ助が目に入った。
父上のようにって事は……
「お前の親父も剣士なのか」
「うん。大きくなったら今度は僕が護るんだ。父上も、母上も!」
「……そーか」
嬉しそうに夢を語るチビ助の髪をくしゃっと撫でる。
しっかりしたチビだな。
いい剣士になるぞ、きっと。
「それ、忘れんじゃねーぞ」
そう呟きながら頭を撫でる。
するとチビ助が、微笑みながらこう言った。
「忘れる訳がないよ。だって僕は……あ」
そこまで言いかけて、チビ助の動作が止まった。
そして少しの間の後、徐にこう言った。
「母上が僕を呼んでる……父上が帰ってきたみたいだ!」
「あ?」
母上?俺にはそんな声聞こえねーけど……
不思議に思って眉をひそめる俺をよそに、チビ助はにっと微笑んだ。
「サヨナラの時間みたいだ」
「サヨナラ?」
「うん、でもまた会うけどね!」
そう言ってくるりと背を向けたチビ助に、俺はちょっと待てと呼び止めた。
「なぁに?」
「また会うって何でわかるんだ」
そう尋ねるとチビ助は少し考えて、その内解るよ!と笑って言った。
その笑顔を見た瞬間、俺はどこか懐かしい思いを感じた。
それと同時に、いつもあいつに抱く感情も一瞬だけ………
「今は何も言わないでおくね」
「え、オイ!」
「へへっ」
照れくさそうに笑った後、チビ助は再び走り出した。
と思ったら、少し進んでまた振り返った。
「煙草はほどほどにね―――!」
手を振りながらそう叫ぶチビ助に、俺は最後の質問をした。
「お前、名前は―――?!」
もうすぐこの夢は終わるのだろう。
だんだんぼやけてくる視界の中でそんな事を思った。
だけどこの夢が終わる前に、チビ助の記憶を少しでも……。
白々しく輝く夢の世界で、遠くなる笑顔が叫んだ。
「コーシローだよぉぉ」
コーシロー、か……
あいつのあの表情は……
「またね―――」
名前を叫んだ後に、チビ助はまだ2,3の言葉を言っていた気がする。
しかし最後ら辺は聞き取る事が出来なかった。
光る白い世界と、薄れ行く意識の狭間にいたせいで。
目を覚ますと、俺は見慣れた縁側にいた。
そーか、そう言えばと話してる最中に睡魔が到来したんだった。
「あ、おはよ、トシ」
「あぁ……」
彼女が俺に気付き、そっと微笑んだ。
つられて俺も小さく笑ってみせる。
この表情………?
「トシ」
「あ?」
「さっきの話の続きなんだけど」
「さっき?」
コクンと頷いて、彼女は真っ直ぐ俺を見据えた。
「落ち着いて聞いてね」
「あ?あぁ」
そう言った彼女の頬は徐々に赤みを帯びてきている。
だけど瞳はすごく嬉しそうで。
その表情の意味が解らず煙草を口にくわえようとすると、
彼女が小さく「ダメ」と呟いた。
「何……で」
そう口にして、俺は唖然とした。
気付いてしまったのだ。
『煙草はほどほどにねー!』
途端に蘇る声。
………もしかして。
辛そうだった事も。
彼女の照れたような、そして嬉しそうな表情の意味も。
「ダメ」と言った事も。
全部、全部――――――
その瞬間。
夢の中で出会った笑顔が俺の頭を過ぎった。
綺麗に、のモノと重なって。
そして懐かしさと……愛しさを感じた。
『またね―――』
―――――――――
トシさん何だか長くなりました。もう少し短くしようと思ったのにな。
コーシローは輝四郎です。お察しの通り息子さんです。
光り輝く中で出会ったから……ってアレですけど安直ですか?
まァアレですよ、可愛い子に間違いありません。それだけは断言致します。笑
そして大きくなったら父上が父上なので色男間違いなしですね☆(願望)