西日は眩しく照り付けるというのに、……何だろう、この寂寥感は。

どうして夕焼けは、こうも切なくなるのだろう。

……あぁ、そうか。

あの人に似てるのかもしれねェな。

いつだって俺に温かく接してくれた、あの人に。









「それでも俺は願い続ける」



















俺は柱にもたれて、彼の背中をじっと見ていた。

寝込む事の無い、病気とはおそらく無縁だった男の、苦しそうに咳き込む後姿を。



南に面する部屋へと西日が斜めに差し込んで、

丁度彼の背中が赤とオレンジに照らし出されていた。



その背中が静まる気配は未だ無い。

俺の耳に、彼の咽ぶ音だけがやけに纏わり付いた。



しばらくしてから音は止み、背中が落ち着いた。

それを見計らって、長く息を吐いて呼吸を整える彼に、俺は一言投げかけた。





「死んじまうのかと思った」

「……?」





軽く咳き込みながら、面倒くさそうに彼の視線が俺を捉える。

だがすぐに逸らして、何も言わずに布団に潜り込んだ。

構わず俺は続けた。





「いっそのこと、そうだったら……とか、思ってません?」





隣に腰掛けながらそう尋ねると、

潜り込んだ彼の口元が笑った。





「そんな風に見えるか?」

「とても」





躊躇いもなく頷く俺に、

彼はお得意の鼻で笑った後、そーか、と小さく呟いた。



それからしばらくして、彼は疲れた。と一言漏らした。

どうやら咳き込んでいた事で体力が大幅に削られたらしい。





「もう寝る……だからお前も出て行け」





……チリチリと、背中に指すような日差しを感じる。

きっとそれは、後悔しないようにと俺を後押ししているのかもしれない。

彼の言葉には従わず、俺は小さく彼の名を呼んだ。





「なァ、土方さん」

「……あ?」





何回か軽く咳き込んだ後で、今は俺に背を向けてしまっている彼が応えた。

この人の背中は、こんなにも小さかったか。

そんな事を微かに思い浮かべながら、俺は言った。





「俺を置いてっちゃイヤですぜ」

「……」





少しの間の後で彼が応える。





「何を、いきなり」

「いやぁ……別に」





相変わらず声色ひとつ変えないでそう言った彼に、

俺は肩をすくめてやった。





本当は、解ってるくせに。

俺が今、どんな気持ちでいるか。

全くもって嫌な男だ。

いつもいつも、とぼけやがって。





後ろから差し込んでくる光が俺の影を作り出して、それを彼の上に映す。

その黒は、何だか彼を蝕んでいるもののように見えて仕方がなかった。



そうして俺は、

彼にとってはあまり意味のない事だと解っていながら、

敢えてそれらの言葉を紡いだ。





「アンタに死なれたら、俺も目的を失うから」

「……」





咳き込む音が静かな部屋に響く。

構わず俺は続けた。





「アンタは俺が自分の手で殺らねェと気が済まねェんで」





そう言った時、彼の肩が小さく動いた。

おそらく笑みを零したのだろう。

何となく、そんな気がする。





「随分とまぁ、物騒な事を言ってくれるじゃねーの」





彼が応えた。

その声は、俺の耳には言葉とは裏腹に、寧ろ楽しそうに聞こえた。





「そんな事これっぽっちも思ってねーくせに、よく言うぜィ」





そう言う俺に、彼は肯定も否定もしなかった。

でも多分、思ってないに違いない。



布団がもぞもぞと動いて、彼が仰向けになった。

何度か咳き込んだ後、彼は空を見つめながら呟いた。





「ま、しばらくは殺られるつもりなんてねーよ」





“しばらく”は?

そう言い掛けて、俺はすぐさま口を閉ざした。

それを言葉にしてもきっと彼は、曖昧に笑うだけだから。

それでやきもきするぐらいなら、最初から吐き出さない方が身の為だろ?





「……そーですかィ」





そう応えた後で、俺はダルそうに目を伏せる彼を背にして、

眩しく差し込む光に目を細めながらそっと窓を開けた。



冷たい風が横をすり抜けていく。

部屋に流れた風は、彼の髪を撫ぜては宙に溶け込んでいった。





「土方さん」





冷たい風を顔に浴びる俺に向かって、彼の声が飛んでくる。

……今度はなんだ。

振り返って、俺は言った。





「逢う時は、一緒ですからね」





彼は「誰に」なんて聞かなかった。

ただ苦しそうに咽た後で、そっと微笑んだ。





「……そうだな」





それがどこか哀しそうに見えたのは、

ぎこちなく見えたのは、きっと俺の気のせいだろう。



















現実に繋ぎとめておく為の言葉なんて、果たしてどれだけもつだろう。

きっともう、大して意味はないかもしれない。



だけどそれでも。



時間稼ぎだと解っていても、それでも俺は言葉にし続けるよ。

叶いそうにない、約束を。



「マダ オイテ イカナイデ」

























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ハイ、沖田目線SSですけれども。
そしてまたミツバ関連ってゆう。(……
土方さんご病気です。原因は多分煙草の吸いすぎ。(……
ミツバ姉と彼を重ねてしまう沖田君です。
死ぬ覚悟が出来ている人間に、
「まだ死なないで」と言うのはかなり無意味な事のように思えるけれど、
それでも「生きてくれ」って望むお話でした。
まぁ要するに沖田君は土方さんが大好きだって事だ、うん。