いつでも全力猛突進!
狙いはただただ、貴方の愛のみ!!
「ムテキなオンナのコ」
「くぉら―――!!!」
4限目終了のチャイムが鳴り響いた直後、
廊下から物凄い足音と雄叫びが聞こえてきた。
スパーンという音と共に、ドアが勢いよく開いた。
それと同時にズンズンとこっちに向かってくる彼の姿が。
眉間にいくつも深い皺を作りながら立ち尽くす彼に、
私は「よっ」と挨拶をした。
「よ、じゃない!他に言う事があるだろーが!」
「……ち、もう来たか」
「たわけがぁっ!!」
うがぁっと怒鳴る彼。
いつか血管切れるんじゃないかしら?
そんな風に思いながら、私は言った。
「まぁまぁ弦ちゃん、そう怒らないでよ。ホイ、羊かんあげる」
カバンから徐に取り出した羊かんを、ポンと彼の掌に乗せる。
それを普通に受け取る彼。
「む、悪いな……って違う!!」
「お?!弦一郎がノリ突っ込みを覚えた〜!(RPG風)」
「喧しい!!」
何で羊かんなんぞ持っとるんだ!とやっぱり怒鳴る彼だけど、
その手はちゃっかり羊かんを握り締めて離さなかった。
アホだなぁ、この人……
体はデカイくせになんでこうも面白いんだろ。
1人で怒ってる彼を横目で見ながら、そっと笑う。
ホンット可愛いなぁ♪
「ゲンイチロー」
「むっ」
ほくそ笑む私の横で未だ1人怒る彼に、白々しく尋ねてみた。
「私のトコへ何しに来たの〜?」
「むっ!いかん、何しに来たか忘れる所だった……!!」
「アホやね〜」
「うるさいたわけ!」
ほぉら、やっぱりこの人アホだわ。
面白すぎてお腹痛いよ。
お弁当をカバンから出しながら笑う。
すると彼は、私の手にあるものを見て思い出したように言った。
「そうだ、俺の弁当を返さんか!」
その台詞を聞いて、私はにやりと笑った。
や〜っと本題ですか、真田さん?
「ここにはないですよー?」
パカッとお弁当を開きながらそう言うと、
「赤也からお前がやったと聞いたぞ」
と彼は言った。
それを聞いて思わず手が止まり、本音が漏れる。
「ちっ。赤也の奴余計な事言いやがって……」
いい加減お腹が空いてイラついてきているのか、
彼が右手に握り拳を作って呟いた。
「どうやら殴られたいようだな、お前……」
「いやぁよぉ、弦ちゃんのゲンコツ痛いもん」
「なら早く返せ」
「んー、そうしたいのは山々なんですけどねー?」
眉間に皺を寄せる彼を見上げて、私はへらっと笑ってやった。
「仁王が持ってっちゃったから、もうここにはないよ」
「……何だと?」
「仁王ね、今日弁当忘れたからラッキーって」
呆然としたまま、だけどわなわなと震えている彼に、
私は「大丈夫!安心して」と笑って言った。
「代わりにイイモノあげるよ!」
「……いいもの?」
「うん」
そう言ってごそごそと再びカバンを探る。
そうして取り出したものを、コトンと机の上に置いた。
「これ、弦一郎にあげる」
「……弁当?」
「そ、私の手作り弁当☆食べていーよ」
彼は、机に置かれた少し大きめの包みをまじまじと見つめていた。
そして弁当を見て、私を見て、という行為を何回か繰り返した後、
「からしでも入ってるんじゃないか?コレ」
と呟いた。
「そんなん入ってないし!」
「……本当だな?」
「おう!」
皺を寄せたままだった彼が、
ふと小さく笑った後に弁当へと手をやった。
「それじゃあ有難く」
「ハイ、どーぞ」
彼の後姿を見送った後、私はそっと息を吐いた。
友達以上、恋人未満。
喧嘩仲間であり、部活の仲間であり。
そんな関係がずっと続いている私達。
でも、もういい加減もう少し先の関係に進みたくて。
最近は何とか彼に想いを告げようと試みている。
でも正直失敗ばかりです。
だってあの人、アホアホで更にニブちゃんなんですもの!
どうしろと?!私にどうしろと?!
……こほん。
そもそも何で今こんな状況だったかと言うとですね。
昨日の赤也からのメールが発端なんですよ。
『明日真田さん用に弁当作ってきて下さい!』
……作っていきましたさ、そりゃ。
訳も分からず早起きして頑張りましたさ。
そうして今朝。
朝練に行ったら、赤也と仁王が彼のカバンから弁当を抜き出していて。
……もうお解りですよね?
そうです、これは作戦だったのです。
名付けて『女らしい一面も持ち合わせてるのよ!大・作・戦☆』
仁王&赤也共同制作プロジェクトらしいです。
……。
変なタイトル……(って言ったら怒りそうだから言わないでおこう)
少しでもアピールしやすいように、という私の為の反面、
なんだか彼らが楽しみたいだけの作戦っぽいですね。
まぁでもいいのです。彼らには感謝ですよ。
結果的に食べてもらえる事になったのだから。
「でもしまったなぁ……」
ふぅ、と小さく息をつく。
「ちゃんと真面目に作ればよかったかも」
そう呟いたと同時に、再び彼の怒鳴り声が近付いてきた。
「くぉら――――!!」
……あぁやっぱり。
ちょーっととうがらし、入れすぎたかもね!
練習帰り。
彼と私は駅まで帰る方向が一緒なので、2人並んで表通りを歩いていた。
ふと、彼が呟いた。
「のどが痛い」
のどを押さえてコホンと咳き込む彼を見上げながら私は尋ねた。
「どったの弦ちゃん。風邪でもひいた?」
「……お前のせいだ」
「あー、ごめんね〜」
無言で見下ろす彼に、私はにへっと笑って軽く謝った。
それを見て、深々とため息をつく彼。
「お前、あの殺人的弁当は頼むからやめてくれ」
「ちょっとしたお茶目です〜」
「あんなモンお茶目でも何でもない」
ツンとした感じの彼に、私は少し胸が痛んだ。
そりゃあさ。
とうがらしバンバンに入れて悪かったと思うよ。
でもさ、一生懸命作った事には変わりないのに。
「ちぇっ」
弦ちゃんのバーカ。
好きな子ほどいじめたいってゆうの、知らないの?
気付いてくれてもいいじゃん。
こんなにアピールしてんだからさ。
何で気付いてくんないんだよぉ……
拗ねながら、ちらっと隣の彼を見上げる。
その横顔を見て、私は決意した。
……ちょっとだけ困らせてやろう!
気付いてくれない仕返しだ!
名付けて『無敵アイテム発動大・作・戦☆』!
ちなみに私のネーミングセンスは、おそらく仁王達とレベルが一緒。
ペースの速い彼に合わせていた足を止める。
すると、数歩先に進んだところで彼が振り返った。
「何をしてる」
「……な…いや……?」
「何?」
俯き加減で呟く私に、彼が聞き返した。
よっし、オンナのコの無敵アイテム発動!
困ってしまえ、真田弦一郎!!
ゆっくり顔を上げると、彼の驚いた表情が歪んだ視界に映った。
「そんなに嫌だった……?」
「な?!」
私の頬を伝う雫に、動揺を隠せない彼が近付いてくる。
「私のお弁当、そんなに食べたくない……?」
「おい、待て」
あわあわとしている彼。
それを歪む視界で見つめる私。
ふふん、いい感じに困ってるね。
王者立海の副部長も、やっぱり女の涙には弱いんだ!
当初の予定では、ここらでなーんてネ!とやる筈だった。
……のだけど。
私は何故か言葉を続けてしまったのだ。
「好きな人に喜んで欲しかっただけなのに」と。
「「え?!」」
言って、彼と同時に驚いた。
慌てて視線を足元へと落とす。
……自分でも焦った。
何で私どさくさに紛れて告白してるの?!
なーんてネ!どころか、
言う予定のなかった言葉を無意識に口走るなんて……!!
火照ってくる顔を覆いながら、ちらりと彼を見やる。
彼も同じ様にだんだんと顔が赤くなっていく。
……もう、後戻りは出来ないか。
バレちゃったんだからしょうがない。
腹を括ろう。
潤んだ瞳で彼を見上げて、私は小さく呟いた。
「……真田が好き」
そこで普通はラヴが生まれる筈だろう。
しかし、彼の場合は違った。
凄く動揺しているのか、軽くスルーする方向で出たのだ。
「わわわ、解ったから、頼む、泣くな!」
「何だよぉ、やっぱり解ってないじゃんバカー!」
コイツはどこまでアホちゃんなんだよぉ。
今私が何て言ったか知ってる?!
「好き」って言ったんだぞー?
嘘泣きのつもりが少し本気になってきた。
ますます視界が歪んでくる。
やりきれない悔しさから、私は叫んだ。
「何でそんなに軽く流しちゃうんだバカぁ!」
すると彼も、痛いと言っていた筈ののどから大きな声で言った。
「解っとらんのはお前だたわけ!」
思わずビクッとして、恐る恐る見上げる。
「あんな悪戯に満ち溢れた弁当、普通は食わんぞ」
「え」
彼は真っ赤な顔でそっぽを向きながら、それでもやっぱり大きい声でこう言った。
「好きな女の弁当じゃなきゃな」
その台詞を聞いて、ふと考えた。
そう言えば今日。
確かに弦一郎、めっちゃ怒ってたけど……
何だかんだ全部食べてくれてた……。
て、こと、は。
「……それ、本当?」
いつの間にか本気泣きで零れた涙を拭いながら尋ねる。
すると彼は縦に頷いた。
「嘘は言わん」
「絶対?」
「あぁ」
そっと微笑んだ彼に、私は飛びつこうとした。
しかしふと周りを見て、飛び出しそうだった足を踏みとどめた。
「嬉しい……ん、だけ、どさ」
「ん?」
不思議そうに眉を寄せる彼を見て、私は気付いた。
あ、やっぱりこの人はアホだ。
まだ気付いてないみたい……
未だ気付かない彼に、私は照れ笑いをしながら呟いた。
「弦ちゃん、ここ……公共のど真ん中って、知ってる、かな?」
「……!!」
慌てて辺りを見回す彼。
周りにはたくさんのギャラリーがいた。
そうなのです。
ここ、表通りだから人がたくさんいるんだよね。
「忘れてた、ね」
えへ、と照れ笑いをした次の瞬間。
「行くぞ!」
「えっ?!」
真っ赤な彼が唐突に私の手を掴んで走り出した。
後ろの方のギャラリーから、何故か拍手が沸き起こっていた。
走りながら尋ねる。
「弦ちゃん」
「何だ!」
「照れてるの〜?」
「お前も真っ赤だ馬鹿者!」
え?と片方の手で頬にぺちんと手を当てる。
それはかなり熱を帯びていた。
「あら、本当」
―――でもね、弦ちゃん。
繋いだ掌の方がずっとずっと熱いんだよ。
弦ちゃんの掌の方が、ずーっとね!
無敵なオンナ、ムテキガール。
無敵のアイテム操って、ついに貴方をゲットしました!
アイテム操る私の名前は、改め無敵girl!!
そして世界中の女の子達も、みんなきっと無敵ガール。
ね?そうでしょ?
そうだ!明日のお弁当はもう少し控えめの辛味でいくから!
だから明日も全部食べてね、げーんちゃん♪
―――――――――
友人リク、テニプリ真田さんです。
私信:真田リクて。まぁ弦ちゃん好きだからいいんだけどさ。
あ、微妙〜に元の文がチェンジ・オーバーしてます。
しっかしまぁ…
もういろんな意味でアホアホですね(^^;
公共の面前で告白しちゃいましたよこの人。
私はどうも「真田さん=大声で告白」になるんですけど(笑)
どんな位置づけやねん、て感じですよね。
取り敢えず楽しくやれてよかったです(^^)
友人に感謝!