私を包むのは、貴方の優しさ。

どうしても忘れられないんだよ。

忘れるつもりなんて、これっぽっちもないけれど。









「好きになってはいけない人だった」



















両親が、鏡に映る私を見て綺麗だと呟いた。

同時に目頭を押さえている姿も見える。



鏡の中の私は白装束で化粧もしていて、

……何だか自分じゃないみたい。



もうすぐ婚儀の礼が始まるというのに、

喜ぶ両親とは真逆で、私はひどく億劫でたまらなかった。



何故愛してもいない人のところへ嫁がなければならないんでしょう。

時代が時代だし、政略婚も当たり前で、

一人娘の私に、両親が期待を寄せるのも仕方のない事だと解ってはいるけれど……



やっぱり、哀しい。

心に決めた人と結ばれたいのに。







「逢いたいよ」







鏡の中の私が、小さく呟いた。

……十四郎に、逢いたい。



おしろいを伝って零れていく雫が、

しばらくの間止まる事はなく、折角の化粧を濡らしていった。



















こんなに好きになるぐらいなら、

こんなに胸が苦しくなるぐらいなら、

最初から好きにならなければよかった。



でもきっとそんな事は無理だよね。

どんな状況であれ、私は貴方に恋する運命だったんだ。



私の全ては彼のもの。

他の誰かになんて、考えたくもないよ。

……でも、我侭なんて言えない。

今更過去には戻れないし。

それに彼が、嘘をついてくれたから。









「お前は故郷に帰れ。……今日でお別れだ。

もう2度と逢わねェよ」









嘘をつく時、彼は少し伏せ目がちになる。

別れを告げる寸前の彼は、伏せ目だった。



言い切れるよ。

だって、彼が嘘を付くときなんて、そうそうないから。



優しくて、道理をわきまえる人だもの。

親が決めた私の結婚を、どこからか聞き入れて来たのでしょう。

だからああ言ったんでしょう?

……私の為に。



そうじゃなきゃ、震える指先も声も、全てが演技。

そんな器用な事、出来っこないもの。



今にして思うよ。

きっと彼は、私にとって好きになってはいけない人だった。

別れても尚、こんなにも愛おしく思うのだから。

……この先誰も愛せやしない。

彼以外、誰も。



















「愛し続ける事を誓いますか」

隣に立つ彼じゃない人が、誓いますと言うのが聞こえてハッとした。

いつのまにか婚儀は進んでいて、愛を約束する場面になっている。



多くの人間の視線が私へと向けられた。

……次は私が誓う番。



隣が応えた同じ質問を尋ねられる。

それを幾度も心の中で反芻した。



『愛し続ける事を誓うか』



神様、私が過去もこれからも愛する人はたったひとりだよ。

他の誰でもない。

彼だけを。









「……誓います」









神様と私だけが知る、誓いの本当の意味。

もう彼には届かないだろうけど……

私はずっと、貴方だけを。



















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いつの間にか淡々と仕上がっていたこのお話。
寝ぼけながらも作ったのか……?
ん〜不思議です。笑
トウシロさん報われなさすぎて悲しくなってきたよ…
なんかものすげーラブラブな話書きたいかも!
って思ってるうめでした。