「帰ったぞー……」

いつもなら必ず返ってくる返答が、何故だか今日はなかった。









「坂田家の食卓」壱訓:そんな日常



















「あん?いねーのか?」



ガチャリと扉を開けて、仄かに甘い香りがするリビングに足を入れる。

いつもなら飛びついてくる姿が、今日は見当たらない。



今日は残業もなく定時帰宅なんですけど。

さり気に毎日の熱烈なハグを楽しみにしてる俺は、小さくため息をついた。





「珍しく仕事でもしてンのかね……」





上着を脱ぎながら、何気なく辺りを見回してみる。

こうしてみると、この家ってアイツのものはそうない気がする。

寧ろ俺の荷物ばっかり?



万事屋と屯所、どちらへも通いやすい場所に新居を構えたが、

どうも俺達2人の新居というよりは、

俺の新居にアイツが転がり込んでいる……って感じだ。





「……ま、いいか」





それでも幸せな事に変わりはない。

……言ってて恥ずかしいな、コレ。





スカーフとボタンをいくつか外しながら、照れを振り払うように軽く首を振る。

そうしてその延長線上をふと見やると、

先のソファから、飛び出す銀色の何かを発見した。



そーっと音を立てないようにして覗き込んでみると、

すやすやと眠りこけるアホ面が目に飛び込んできた。





あ、いた。

そう思うのと同時に、口元がだんだん緩むのが解った。





「アホな顔……」





そう呟く口を、寝息を立てる銀時の口元へと近付ける。

あと少し、と言うところで、その口が動いた。





「ダメだよ、土方くん」





驚いて下を見ると、

ふふんと鼻で笑いながら俺を見つめる銀時と視線がかち合った。

銀時は続ける。





「ちゃんと“ただいま”って言わなきゃー」

「……寝たフリしてやがったな」





行き場のない近付けた唇を寸止めしたまま、俺は呟いた。

そんな俺の質問には応えず、銀時はにやりと笑った。





「そんなに早く俺に逢いたかったんだ?寝込み襲うぐらいに」





するりと銀時の右手が首筋へと伸びてくる。

妙に火照る俺の首筋が、ひんやりとした掌の感触を捉えた。





「……そーだって言ったら?」





そう呟きながら、銀時のくるんと丸く跳ねる髪に指を絡ませる。

すると銀時は「ま、当然だろ」と応えた後で、

寸止めだった俺に軽く唇を押し当てた。





―――おかえりー、土方くん。





銀時が小さく微笑んで、俺は再び唇を重ねた。





―――ただいま。















たまにはこうして重なるのも悪くねーな。

結構ちっぽけで、だけど偉大な幸せに気付く―――そんな日常。



















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銀土劇場・新婚さんver!……なんだけど。
おかしいな、この流れでいくと土銀だなコレ。
……(゜_゜)
いやいやいや、私は銀土派なんですよ、だけど文章で書くと土銀に……
……(゜_゜)
ま、銀土銀万歳って事で!(あれー