隣を歩いているけれど、

近そうで遠い、2つの影。









「オレンジ色の架け橋」



















夕暮れの匂いが辺りを包む頃。

見慣れた青い帽子を発見した瞬間、

私はいつものように駆け出した。



「りょーおーちゃん!」

「うおっ?!」



ドンッと背中に衝撃をくらった彼が、

呆れた顔で振り返った。



「…

「いやん亮ちゃん、怖いお顔」

「お前なぁ!」

「えへ」



亮ちゃんは呆れた顔を浮かべている。

そりゃあそうだよね。

その理由は明確で、私がいつも彼の背中にタックルをお見舞いしてしまうから。



いやいや、違うんだよ!

やっぱ助走つけるとさぁ、その分勢いが増すじゃん?

自分ではとまれなくなっちゃうんだよね。



「決してわざとじゃないから!」

「…わぁってるよ」



彼が眉間にしわを寄せて、大きくため息をついた。





…亮ちゃん、あたしね。

亮ちゃんの呆れながらも相手してくれるお人好しさんなとことか。

眉間にしわ寄せながらも許してくれちゃうとことか、時折見せる優しく笑う顔とか。

大好きなんだよ。

知ってた?

























オレンジ色に囲まれた街並みを歩く。

そんな亮ちゃんとの帰り道は、

幸せだけどちょっぴり胸が痛くなる。



隣に並んで歩くけど、なんだか遠い気がして。

空いている隙間を埋めたいのに、その距離はどうしても埋まらない。



…繋がらない影なんて見たくないんだ。



少し斜め後ろを歩いたところで、

彼がいる側に手を伸ばしてみる。

丁度影が手をつないでいる風になるように。



大好きな亮ちゃん。

…その温もりに触れてもいい?



「なぁ



急に名前を呼ばれてドキッとした。

慌てて伸ばしかけた手を引っ込める。



「なぁに」

「お前さぁ…」

「うん?」



チラッと私の方に視線を向けた後で、彼は続けた。



「どうしていつも後ろ歩くんだよ」

「え?」

「隣にいると思ったらすぐ後ろら辺歩き出すだろ」

「うーん…」



やべ、亮ちゃん気付いてたんだ。

その理由が「影で手繋いでるからだよ、ハート」だなんて…

恥ずかしくて言えたもんじゃない!



どう返事をしようか悩んでいる私に、

彼はボソッと呟くように口を開いた。



「それ、すげー嫌なんだけど」

「え」

「あ、いや、一緒に帰ることが嫌な訳じゃなくて」



えーっとだな、と口ごもる彼。

その彼の頬はなんだか赤くなっていた。

それが夕陽のせいなのかそうじゃないのかわからないけど。



「俺、お前にはさ」



額のテープの辺りをかきながら、彼が言った。



「出来れば…隣歩いてて欲しいからよ」



…ふ、不安になるからな、と最後に小さく付け加えてから、

自分が発した言葉に照れたらしい亮ちゃんはそっぽを向いた。



「ねぇ亮ちゃん」

「…なんだ」

「耳まで真っ赤だよ」

「う、うるせぇバカ」



照れると口調が荒くなる、

相変わらず照れ隠しがヘタクソな彼。

そんな姿も愛おしすぎて、自然と笑みがこぼれた。



「…亮ちゃん」

「今度は何だよ!」



ついさっき隣で歩いて欲しいって言ったくせに、

テンパりすぎてなのかズンズンと歩いていこうとする彼。

そんな彼に私は言った。



「手、つないでもいいですか」



しばらく無言だった彼が意を決したのかなんなのか、

相変わらずそっぽを向いたままだったけど、

「ほら」と小さく呟いて差し出した大きな掌は、思った通り温かかった。

























オレンジ色に輝く街を、今日も君と歩いてく。

地面に伸びた影は、少しずつ距離を縮めていって、

どうにも埋まらなかった2人の間に、腕の架け橋が繋がった。



この架け橋は2度と離れることはない。

そう信じて並ぶ、夕暮れに染まる帰り道。



―――オレンジに染まった架け橋が、静かに私たちを結んでいた。















――――――――――
土方さん以来、久しぶりに書き上げました。
何か私今、無性に恋したい時期に差し掛かってんですよねー。笑
…亮ちゃんが彼氏だったら毎日萌えですな!(←危ない人)