ねぇ、知ってる?
私がどんなに…あなたを好きかってこと。
「終わりが告げる始まりの鐘」
「もうすぐ卒業だな」
ふと、斜め前の席の土方くんが呟いた。
卒業式を間近に控えた、日差しが大分温かい午後。
久しぶりに来た教室で感慨深くなったのか、彼はそうこぼした。
「どうしたの、土方くん」
柄じゃないねぇ、と笑いながら尋ねると、
彼も小さく笑って「確かに柄じゃねぇ」と頷いた。
「でも、うん…そうだねぇ」
でも、彼がそうこぼした理由がなんとなくわかるから。
…少しだけ胸がギュッと締め付けられる思いがした。
「…卒業だねぇ」
私も彼の言葉を繰り返した。
私たち3年生はもう、登校日と卒業式以外は学校に来なくなっていた。
…今日は卒業式前の最後の登校日。
式の練習を終えて、卒業アルバムやらいろんな配布物も配られた。
そのアルバムを広げてキャッキャッと笑うみんなは、
どことなくテンションが高い気がする。
…ちょっとおセンチな私と土方くん以外は。
「で?」
唐突に土方くんが切り出した。
「、お前どーすんの?」
「何が?」
「…告白」
右手を机について、その上に頬を乗っけている彼は、
「するって言ってたじゃん、好きなヤツに」
そう言いながら、切れ長の目で私を見た。
その目にドキッとしながら、うーん、と苦笑いを浮かべる。
「土方くんは?」
「あ?」
「土方くんはどーすんの、告白」
俗に言うニヤリ、という笑みを浮かべながら、
「するんじゃなかったっけ?」
と、同じ質問をぶつけてみた。
彼はその問いに何も言わなかったけれど、
代わりに優しい顔で笑ったから、きっとするんだろうな、と察した。
…そっか、告白するのか。
「…土方くん」
「おー」
“うまくいくといーねぇ”
その時の私は、彼にうまく微笑みかけられたかな。
彼の好きな人はミツバさん。
特進クラスの、綺麗な人。
土方くんや近藤さんや総悟の幼馴染なんだって。
1度だけ話した事があるけれど、すごく優しい人だった。
そりゃあ…土方くんが好きになるのもわかる。
いや、誰だってあの人の事を好きになるよ。
…だから、心配なんだよね。
彼女を他の男に取られないか、内心とても心配してるんだよね。
……悔しいなぁ。
どう足掻いても、私に勝ち目なんてないじゃないの。
ねぇ、土方くん。
私の好きな人ってあなたなんだよ。
あなたが彼女しか目に入らないのと同じで、
私の目にもあなたしか映らないんだよ。
ねぇ、知ってる?
私が…私がどれだけ、あなたを好きか。
「告白は…どうしようかな」
したい気持ちは山々なんだけどね、と苦笑する。
でも、したらきっとあなたは困るだろうから。
…優しいあなたの困る姿は見たくないんだ。
「そっか」
特に理由を聞くことはせず、彼は2,3度頷いた。
その後で、こう付け足した。
「お互いうまくいくといいな」
私は頷く事が出来なくて、ただ小さく微笑み返した。
家に帰って、卒業アルバムを開く。
クラスのページで最初に目に入ったのは、やっぱり彼だった。
胸のあたりがなんだかモヤモヤする。
「お互いうまくいくといいな」
彼の言葉と、優しく笑う姿が頭の中でくるくるとしてる。
「お互い、か」
彼の無表情な写真を見つめながら、ふ、と口元を緩める。
そうだね、出来ることならうまくいきたいよ。
でも。
彼にとっての私は友達。
ミツバさんは好きな人。
それは揺るぎようのない事実。
―――友達。
何も伝えなければ友達のままでいられる。
……だけど。
私の指が、そっと彼の写真をなぜた。
卒業式当日。
私は自分の席からぼんやりと窓の外を見つめていた。
式も終わり、さっきまで卒業生やら後輩やらで賑やかだった校庭は、
今はもうしんと静まり返っている。
後ろのほうで、カタンと人の気配がした。
「…?」
「土方くん」
振り返ると、少し驚いた顔の彼が扉のあたりに立っていた。
「お前、まだいたのか」
「うん、ちょっとね…忘れ物しちゃって」
「忘れ物?」
眉をひそめる彼に、私はそっと微笑んだ。
「ねぇ土方くん」
「…なんだ?」
「アルバムの寄せ書き書いてくれない?」
土方くんにだけ書いてもらってないからさ。
そう言いながら、自分のアルバムを差し出す。
「あぁ…」
じゃあ俺のも書いてくれるか。
そう言って彼も、ロッカーに仕舞ってあったらしいアルバムを私に渡した。
「いいよ」
それを受け取って、キュッキュッと音を立てながら文字を並べていく。
少しの沈黙の後、彼が尋ねた。
「聞かないのか?」
「…何を?」
手を止めて、目線を彼に向ける。
彼はちょっとだけ黙って、「いや、やっぱ何でもねぇ」と笑った。
本当はその質問の意味なんてわかってる。
「告白の事、聞かないのか?」でしょう?
「聞かないよ」
本当はあんまり聞きたくないだけ。
それに、あなたも私に深くは聞かなかった。
微妙な距離感を、いつも保ってくれたあなた。
今度は私が保つ番でしょう。
だから…聞かないよ。
でもその代わり…
「でーきた!」
パタンと閉じて、彼に渡す。
そしてひとつだけ大きく伸びをして、私は荷物を肩にかけた。
「さ!私は帰ろうかな!」
「お前、忘れ物は?」
「あぁうん、ちゃんと持ったよ」
そう満足気に微笑む私を、不思議そうに彼が見る。
すれ違い様にその彼の肩をつん、とつついた。
「土方くん土方くん」
「な、なんだよ」
「逃がした獲物は大きかったんだよ!」
「…はぁ?」
全然話が読めていない彼に、
じゃあね〜!と手を振って私は教室を後にした。
聞かない代わりに、
“ずっとずっと大好きだったんだよ ”
困る姿は見たくないと言ったけれど、
少しくらい私のことでもドキドキしてよ!っていう、
そんな可愛らしいこの気持ちぐらい、許してよね。
同じスタートに立って、一緒に駆け抜けてきた。
ゴールは人それぞれで違うけれど、
それでも一緒に駆け抜けてきたこれまでは、キラキラ眩しい想い出になる。
全てがうまくいく訳じゃない。
だけど全てがうまくいかない訳じゃない。
ひとつの終わりは、新しい始まり。
終わりを告げる鐘は、新しい何かの始まりの合図。
「―――待てよ、!」
―――そうしてまた、ひとつの始まりの鐘。
――――――――――
久しぶりに土方さんで書いてみました!
3Zのちょい青春チックが書きたくなりまして。
まぁ~アレ、卒業シーズンに間に合うように頑張ったつもりなんですが…
私自身もう卒業式終わった後ってゆうねσ(・ω・)
卒業の皆さん、おめでとうございまーす(^∀^)