「真選組め、死ねェエエ!!!!」

前の敵に気をとられていて、背後の気配に気付かなかった。

あぁ、私の人生もここまでか……

刀が振りかかってくるのがスローで見えて、死ぬ覚悟をした瞬間。

視界には栗色が現れて、遠くの方では私を呼ぶ声が聞こえた。



―――っ!!









「彼の香りと鉄の味と」



















「総悟っ!ねぇ、返事してよ!総悟!」



パチンと何度も彼の頬を叩く。

全く微動だにしない整った彼の顔には、いくつか生傷が出来ていて、私はますます不安と焦燥に駆られた。

彼の頭をぎゅ、と抱え込む。





「何で私なんか庇ったのよ、馬鹿ぁ…」





込み上げてくる涙を何とか堪える私の下で、ゆっくりと彼が目を開いた。





「なぁに…泣いてるんでィ、

「そ、総悟ぉ!」





いてて、と顔を歪める彼に思わず抱きつく。





「ごめん、ごめんね総悟、私が……私のせいで……」

「そんなことより……怪我は?」





私は首を横に振った。

彼は苦しそうに呼吸をしながら、それでも無理に微笑んだ。





「そーかィ……そりゃあ身体はった甲斐があったってもんでさァ」





抱きかかえる彼の腹部からは、どくどくと生温かい赤が流れていて、

それは一向に止まる気配を見せない。

私はその傷と彼の顔とを、ぼやける視界で何度も交互に見やった。





「総悟、喋っちゃダメ…!待って、もうすぐ医療班が着くはずだから……」





―――お願いだから止まって、止まって……!!

止血をしようと試みるけれど、なかなか上手くいかない。

それでも私は、零れそうになる涙を拭って、必死で手当てをし続けた。

―――私が総悟を護りたかったのに逆に護られて、しかも手当ても満足に出来ないなんて…

そんな思いでいっぱいいっぱいだった。





「……





苦しそうな呼吸をする彼が、その合間に小さく私の名を呼んだ。

彼の顔を覗きこむと、私の顔を見るなり、彼は力なく笑った。





「……はは、、愉快な顔してまさァ」





泣くのを必死にこらえる私の顔を見て笑う。





「この顔は生まれつきだもん」





そうやって鼻をすすりながら言うと、可愛くねー女だ、と彼は呟いた。

その言葉は、遠まわしに泣くなって言っているように聞こえた。

それと同時に、嫌な胸騒ぎがした。





「アンタに……、ずっと言いたかったことがあるんでさァ」

「嫌だ……今は聞きたくない」

「……

「無事に帰れたら……一緒に屯所へ帰ったら聞かせて?」





ここで泣いたら負けのような気がして、精一杯笑おうとした。

けれど、やっぱりそんな事は出来なくて。

溢れ出る涙は止められなくって、ポタポタと彼の頬に落ちた。





ね、総悟。

お願いだから……わかったって言って。

一緒に戻ろうよ。

こんなところでへばるなんて、総悟じゃないよ。





「一緒に帰ろう?」





震える声でそう私が言うのと、

ぐいと私の顔が引き寄せられ、何かが唇に触れたのとはほぼ同時だった。

目の前にある彼の顔が困ったように眉を寄せて微笑んだ。





「誰かの為に死ぬのも…あながち悪くねーなァ」

「やだ…そんなこと言わないで」





彼の掌がそっと私の頬を撫でていって涙を拭った。

目を閉じた彼が囁くように呟く。





…、俺アンタのこと……





しかしその後の言葉が紡がれることはなく、

その掌も力なく、トサッと地面に落ちた。





「……総悟、続きはなぁに?」





落ちた掌を力強く握り締める。

彼の顔の傷を、零れる雫が濡らしていった。





「……何か言ってよ」





虚しく響く声は、誰の耳にも届かない。





「ひとりにしないでよ、総悟ぉ……」





―――最初で最後のキスは、彼の香りと鉄の味がした。





























数ヵ月後。

ボーッと縁側に腰掛ける私の背中を、いきなりドンッという音とともに衝動が襲った。





「いったぁ!誰よもう!」





声を上げて振り返って……そして私は眼を丸くした。

振り向いたそこには、私を蹴ったであろう右足を上げたまま突っ立ってる、

あの日血だらけだった彼の姿があったからだった。





「いえーい、沖田君全快〜」





Vサインをしながら、眼を丸くするばかりの私の顔を覗きこむ。





「おーい、もしもーし」

「……あ」





何だか久しぶりすぎて言葉がうまく出てこなくて。

散々黙った挙句、やっとの思いで第一声をしぼり出した。





「……脅威の生命力ね」





ポロッと出た私の第一声に、彼は大げさにため息をついた。

私も密かに、どうして素直におかえりとか言えないんだろうなぁ……と心の中でため息をついた。

でもこればっかりはしょうがない。

自分の性分じゃないから、どうしても照れくさくて言えないんだ。





「全く可愛くない女でィ」





わかってるよ、可愛くない女だって。

そう口を尖らせると、隣に腰掛けながら彼は笑った。





「ひとりにしないでよって泣きついてたのは一体誰だィ?」

「うっ、何でそれを……!」





みるみる顔が熱くなってきた。きっと赤いに違いない。

私の真っ赤な顔にニヤッという笑みを浮かべながら、彼が「ちゃあんと聞こえてたんでさァ」と言った。





「あん時は可愛かったのに」

「じゃっじゃあ!総悟も何て言おうとしてたのよ!ずっと言いたかったってヤツ!」





勢いよく言うと、彼はあぁと頷いて「聞きたいですかィ?」と聞いた。

私がうんと頷くと、彼は唐突にさらりと言ってのけた。





死ぬほど愛してる。





「へ?」

あまりにもさらりとしていたので、一瞬何を言ってるのか解らなくて。

思わず間抜けな声を上げてしまった。





「あの、もっかい」

「だからァ」





そこで区切って、彼はもう一度さらりと言った。





「アンタのこと、死ぬほど愛してるって言おうとしたんでさァ」

「……え!!」





隣に腰掛ける彼はいつものように飄々としていて。

だけど冗談で好きだの愛だのを言う人間ではない事を知っているから、

ますます私は顔を赤くした。彼は真顔のままさらに続けた。





「まぁ実際死にかけてたし、アレで死ぬのも本望っちゃ本望だったけど。

 誰かさんに……ひとりにしないでって頼まれちゃったんでねェ。

 仕方なくこの世に留まることにしたんでさァ」





何も言えないでいる私に、彼は「あぁ、やっと言えた」と呟いてから、満足したかィ?と尋ねた。

それに小さく首を縦に振って応えると、彼の掌がそっと私の頬を撫でて、そういう訳で、と言葉を続けた。





「お望み通り、絶対ひとりになんかさせやしねーので」





彼は自信たっぷりに笑いながら、覚悟しなと呟いた。





あの日と同じ様に、彼の香りが漂って、私はそっと目を閉じた。

唯一違ったのは、鉄の味の変わりに彼の優しさの味がした。





―――鉄の味がするキスは、きっとあれが最初で最後だろう。



















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総悟夢……なのか?これは。
果たしてこれでよいのだろうか。(聞くな)
総悟君はいざとなったら自分を犠牲にしてまで護ると思います。
土方さん然り、勲然り。真選組はいい男が多すぎます。
萌えよ剣って感じです。(意味不明)