なんやかんやでいつも仕事に追われている私の彼は、
よく倒れないでいるなぁって逆に感心しちゃうほどに大変そう。
きっと疲れているに違いない。
……やっぱ疲れたときには、甘いものだよね?
「バレンタイン・キッス」Toshiro ver
「ひーじかーたさん。です、入りますよ」
コンコンと軽くノックをして、私はそっと扉を開けた。
部屋の奥から、案の定書類に埋もれた彼がおうと小さく応えるのが聞こえて、
書類から目を上げた彼が何か用か?と尋ねた。
私は彼の目の前に立って、後ろに隠していた小さな袋を差し出した。
「じゃーん、差し入れ持って来ました!」
「へェ、のくせに気が利くじゃねーか」
「……のくせにって何ですか。まぁ否定はしませんけど」
そう私が口を尖らせると、彼はただ煙草をふかしながら笑った。
そして、ふーと煙を吐き出した後で「そんじゃあ休憩にでもするか」と呟き、
仕事の机から離れて、私の隣にストンと腰を下ろした。
「で、何持ってきたんだ?」
「チョコレートです」
「チョコ……」
少しだけ眉を寄せた彼に、だって今日はバレンタインですよ?と言った。
「甘さ控えめに作ってみたんです」
「……が作ったのか?」
チラッと彼が私を見た。
その視線が何をいわんとしているのかは嫌というほどによく解った。
……彼は知っているのだ。私の料理の腕があまりよくないことを。
私はにこりと微笑んだ。
「なんですか、何か言いたげな眼ですね」
「別に?」
「……こうみえてもお菓子作りは好きなんですよ」
「ふぅん」
「大丈夫、胃薬なら用意してありますから」
「そりゃあ助かる」
そう言って笑った彼に、えいと小さくわき腹を小突いてやった。
本気のような冗談のような小さな戯言は、私達の日常茶飯事だった。
それからすぐ。
彼が丁寧に包装をといた袋の中からは小箱が出てきて、それを開けた彼が頷いた。
「見た目は……お前にしちゃまぁまぁだな。形保ってるし」
「さっきから喧嘩売ってるんですか?」
「冗談だって」
そう言って笑った彼は煙草を灰皿に押し付けて、
それからもう一度小箱を見てふぅんと頷いた。
「ま……なかなかじゃねーの?」
「……あ、土方さん照れてるでしょ」
「照れてねーよ」
とか言いつつ、彼はそっぽを向いたままだった。
可愛い人だなぁ。私はそっと微笑んだ。
ふと、総悟が「土方さんはには優しくて気味が悪ィや」と笑ったのを思い出した。
鬼の副長と謳われる彼。だけど中身はとても不器用で優しい人。
そんなふとした、さりげないながらも温かい彼の優しさが私は好きだった。
チョコの粒をひとつつまんで、彼が口に放り込んだ。
その様子を横で見ながら、私はどうですか?と尋ねる。
それには何も応えないで、ごくんと飲み下した後に、
彼が徐に私の名を呼んで、ちょいちょいと手招きをした。
「何ですか?」
「いーから」
内心不味かったのだろうかと不安に思いながら、隣にいる彼の傍へと更に近付く。
「もしかして、おいしくなかったですか?」
そう尋ねようと口を開きかけた瞬間、彼の唇が私のに重なって。
それと同時に甘い味が口の中に広がった。
「……どうですか、サン」
唇を離した彼が私の顔を覗く。
それに応えるように少しだけ首を傾けて、私は笑った。
「んー、ちょーっと甘めですかね」
「ちょっと?」
「いやぁ……大分、かな」
「……お前、甘さ控えめとか言ってなかったか?」
「あれ、おかしいなぁ〜」
えへ、と笑って誤魔化してみる。
それにつられたのか、彼も呆れ半分の顔に笑顔を浮かべた。
……しまったなぁ。
ビターチョコで作ったつもりだったんだけど、どうも失敗しちゃったみたい。
ホワイトチョコの甘さまではいかないけど、それでも思いのほかに甘かった。
内心で反省をしてみる。
あーぁ、料理もまともに出来ないなんて…あきられちゃったかなぁ……
そう軽く落ち込む私の頭を、彼がコツンと叩いた。
「美味かったよ」
ごちそーさん。
私が見上げると、彼はそっと微笑んでくれた。
その顔は、落ち込むなって励ましてくれているようだった。
「じゃあ、お返しは3倍でお願いしますね」
彼の一言で元気になる現金な私がそう言って微笑むと、
その当の本人が「げ、3倍?」と眉を寄せながら呟いた。
期待してますから!と頷くと、彼は「わかった」と小さくため息をついた。
「じゃあ、その日の夜は甘さ3倍っつー事で」
「……へ?!」
「何だよ、3倍がいーんだろ?」
「いや、まぁそうですけど……」
「じゃあ問題ねーだろ」
お返し、楽しみにしてろよ。
そう呟きながら、にやりとお得意の不敵な笑みを浮かべた。
チョコより何倍も甘い甘い夜を貴方と―――
♪Happy V・D♪
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久しぶりの土方さん夢です。もうこの季節がやってきましたねぇ。
私はここ数年全然あげてないですね。もっぱら貰う専門です。
誰かぁ!今年も私にギブミーチョコレーツ!