過去を忘れるつもりなんてないさ。

背負って生きていくのが俺の生きる術。

だけど、せめて……









「坂田家の食卓」弐訓:抱きしめて、頬を寄せて



















赤黒い、嫌なにおいが充満する世界。

その真ん中で、俺はひとり立っている。

傍らに転がる黒いものがケタケタと笑い声を上げた。



「俺達を置いていくのか?」



途端、俺の周りには見覚えのある髑髏が並び、

口々に悲鳴のような叫び声を上げた。



苦シイ

痛イ

苦シイ

助ケテ



あまりの音量に、耳が潰れそうだ。

いくら耳を覆っても、その叫びは途切れる事はなく、だんだんと強くなっていく。

それは、鼓膜を通る音じゃない。直接脳に響いてくる音。

―――かつての、仲間の叫び。



それから、鼻にもツンとする匂い―――血生臭さが、やけに染みついてきている。

ドクン、ドクンと、ゆっくり大きく、心臓が脈打つのが解った。

そうして……ひときわ大きい音で、再びあの笑い声が俺の身体に響いた。



「ケケケ、守れもしねェのに」



……やめてくれ



「自分だけ、のうのうと生き延びやがって」



……やめてくれ



「諦めろ、テメーには無理だ」



ドクンと何かが弾けた瞬間。



裏 切 リ 者 !



一斉に髑髏が叫び、そして―――大きい髑髏が、俺を黒い渦に引きずり込んだ。

深い、深い、光の届く事のない闇の中へ―――



















「はっ!」



俺はハッとして目を覚ました。



「―――……夢、か」



ひらけた視界にはいつもの天井があって、赤黒い世界はどこにもなかった。

手には汗をかいていて、呼吸は荒く、肩で息をする始末だった。

俺は上半身だけ起き上がり、顔を覆った後で、長く息を吐いた。



―――久しぶりだ、こんな悪夢にうなされるのは……



そんな事を思いながら額を流れる汗を拭い、その手を軽く目にあてる。



「寝覚め悪ィな、オイ……」



……思い出したくない、何とも言えない寂しさがひどく痛い。

もう一度長く息を吐いて、変にドクドクと波打つ鼓動を抑えようとする。

しかし収まるわけもなく、逆に懐かしくさえ思える恐怖が募っていった。



「忘れたい記憶に限って、鮮明に思い出せれるモンなんだな……」



俺は掌の下で、苦笑いを浮かべた。



















目を閉じた。

そこには未だ鮮明に残る記憶があった。



―――周りには無残に転がる無数の死骸なかま

取り巻く空気は息が詰まりそうなほど重々しく、

地獄か現実か、区別がつかないような光景。

立っているのは―――……俺だけ。



立ち尽くす俺に、容赦なく雨が降りつけて。

冷たくなる仲間も救えず、たったひとり。

声を掛けても応えてはくれない、仲間たち。

俺の頬を伝うのは、雨か涙か、わからなかった。









……あの時は成す術がなかった。

救いたくても救えなかったんだ。

そんな事を今更俺が唱えても、髑髏になったかつての仲間は納得しないだろう。

何を言ったところで、彼らの生は蘇りはしないのだから。



だから俺は、彼らの分の生を背負って生きていく。

俺の背中は、彼らを背負うためにある。……大切なものなんていらない。

―――そう、決めたつもりなのに。









ふと目を開けて、左の方を見やる。

そこには、俺に背を向けた格好で寝入る姿があった。

無造作にはねた黒髪が、ほのかに優しい香りを漂わせている。

その背中に向けて、そっと笑みをこぼした。





―――護りたいものが出来たんだ。

自分の身を呈してでも、護りたい大切なものが。





俺と一緒に行動をする、万事屋メンバーとか、コイツとか。

色んなお人好しな人間が俺の周りを囲っていて、だけどそれらはとても温かいんだ。

巡る血さえも冷たく感じていた俺を、暖めてくれたんだ。





赤黒い世界で、たったひとり立ち尽くしていた俺は、

いつの間にかひとりじゃなくなっていた。

こんな俺に微笑みかけて、ただ傍にいてくれる人がいる。

……だから。





「次は必ず護る……護ってみせる」





あの、髑髏となった仲間たちの二の舞にはさせない。

もう2度と闇には堕ちない……決して。



















再び布団に潜り込んで、その背中を抱きしめた。

聞こえてくる規則正しい音が身体に浸透してきて、ひどく心が落ち着いた。

……さっきの叫びは、今はもう聞こえない。







感じる温もりと、安堵を抱きしめて、俺はゆっくり目を閉じた。

あたたかさに、身を寄せて。



















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あれっ?!「坂田家」は銀土ラブコメにしようと思っていたのに……!
坂田家の銀ちゃん、なんだか大分重たい過去を背負ってますねぇ…
でも実際にも重そうなの、背負ってそうですよね?
てゆーか相変わらず台詞が少ないしそもそも夢じゃないしってゆーか更に言うと土方さん出てこないけどどうしましょう?銀土…どこいった?!
……ま、結論は、銀ちゃんは土方はん大好きっつーことですよ。