「おーおーぐーしーくーん」
書類の向こうから聞こえる声に、俺は密かにため息をついた。
「坂田家の食卓」零訓:幸か不幸か何て自分で決めろ
「まぁた残業してんの?」
「……」
深夜近く、未だ膨大なる書類の山に埋もれる俺を笑うお前。
好きで埋もれてる訳じゃねェよ、畜生。
「お前、不法侵入で訴えるぞ」
「ヤだなぁ!折角こっそりと逢引しに来てる恋人に、その言い草はひどくない?」
「知るかバーカ」
フン、と鼻で一蹴して、懐から一本煙草を取り出し口にくわえる。
そうして更に懐を探る内、そう言えばライターがない事に気付いた。
―――しまった、昼間は山崎の借りてたんだっけ。
懐を彷徨っている手が止まった時、
それを見計らったかのようにデカイ割に細い腕が伸びてきて、
その掌の中でカチンと金属音が響いた。
「ハイ、どーぞ」
俺のライターを持ってにやりと笑う。
……あぁ、道理でない筈だ。
揺らめく炎に煙草を近付け、
ふーっと長く息を吐き出した後で、椅子の背に深く身体を預けた。
知ってるか?それ窃盗ってゆーんだぞ。
そう言ってやろうかと思ったが、結局は飲み下した。
だってコイツには何を言っても仕方のない様な気がして。
カチン、カチンと、蓋を閉じたり開けたりする音が静かに響く。
お前は机に腰掛けて、俺は椅子に深く腰掛けて、同じ空を眺めていた。
「土方君」
「……何だ」
机に腰掛けるその背中が言った。
「欲しいモンがあんだ、俺」
首だけ振り向いたお前が小さく笑った。
だけどその瞳はなんだかとても真剣で、不覚にもトクン、と小さく鳴った。
「……金はやんねェぞ」
言ってすぐさま後悔した。
……アホか俺は。
そんな事じゃない事ぐらい解る。
解ってはいるが、それでもそう言ってしまったのだから仕方ない。
そんな俺を解ったのか、お前は半ば呆れた笑みを浮かべた。
「まー金も欲しいけどね、そーじゃないの」
あぁ待て。
お前が振り向くと、折角積み上げた書類の山が崩れてしまうんだが……
って、もう遅いか……
いくつかの山を壊しながら、それでも構う事なく、
少し古い机の軋む音と共に、お前の身体が正面を向いた。
いつになく真剣な瞳が真っ直ぐに俺を捉える。
それに伴いまたしても一つ鼓動が鳴る。
しばらく俺を見つめた後で、徐にお前は呟いた。
「……お嫁さん」
「は?」
「黒髪でヘタレなのにカッコつけで、めっちゃツンツンしてんのに超可愛い、黒猫みたいな嫁が欲しい」
「……よ、め?」
おう、と頷いた後で「何、ちゃんと聞いてなかったの?」と口を尖らせたお前は、
もう一度俺の目を見ながら、今度は真顔で言った。
「だーかーらー黒髪でへt」
「2回も言わなくていい」
「うわーひど〜い」
そう冗談めかしく笑うお前と、
一気に体温が上昇した気がする俺との間にはしばし沈黙が流れる。
伸びてきた掌は俺の頬をなぜて、
その温かさにもまた鼓動は高まっていく。
俺は柄にもなく動揺なんかしていて、
手から落ちそうになった煙草をくわえ直して言った。
「……ちょっと煙草買いに行って来る」
「……いーけどォ」
立ち上がろうとしたその瞬間、お前が俺の腕を引っ張って。
どうゆう訳かその後は、俺の身体は机の上に仰向けに押し倒されていて、
月明かりに照らされているお前の顔は、にやりと悪そうな表情を浮かべていた。
「顔、赤いんだけどなー?そんな顔で外出るの?」
「う…るせっ……!!」
俺の右手でジリジリと煙を上げる煙草を、
お前はそっと抜き取って自分の口元へと運んだ。
じっと見下ろす瞳に耐え切れなく、
顔を背けながら苦し紛れに俺は言った。
「相変わらず嫌な笑みだ……!!」
「そりゃ、どーも」
お前は煙を吐いた後、優しい瞳で笑った。
そして耳元で、低く甘く囁いて。
混沌とする頭が唯一把握できたのは、
その後―――俺の煙草の味がしたという事だけ。
あぁ、俺は一生こいつにゃ敵わねェ。
そんな思いがふっと過ぎった。
―――それは幸の始まりか、それとも不幸の始まりか。
「俺のモンになれよ、……十四郎」
なるかならないかは、お前次第だバーカ。
そう言おうと思ったが、やっぱり俺は飲み下した。
どうせコイツに言っても仕方が無い。
選ぶ道は、ひとつだけなんだからな。
――――――――――
ハッピバースディ銀ちゃん!!
おめでとう、おめでとう銀ちゃあん!!
銀ちゃんへのプレゼントは赤いリボンでくるまれた土方さんだと信じて止まないうめですてへ!
誕生日小説なのかそうじゃないのかよく分かりませんがまぁ許して下さい。
ではでは、おまいら可愛い子ちゃんカップルに幸あれー!ニコッ